「事前に財産をもらうと、どんな影響があるの?」
「相続税って、亡くなった時のことだけだよね?」
「え、こんなに影響あるの…」
相続税は、民法とも密接に関わるため、全体像を把握するのが難しい面もあります。
生前に財産を受け取っていた場合、
- 特別受益
- 生前贈与加算
という言葉が出てきます。
両者の共通点と違い、相続税への影響を整理してみます。

ざっくり押さえる「生前贈与」の影響
どちらにも共通することは、
相続開始「前」に被相続人(亡くなった方)から受けた「贈与や利益」が対象になる
という点です。
それぞれヒトコトでいえば、
- 特別受益…相続財産を分ける時に、過去の贈与分も考えて公平に分けようね、とする制度
- 生前贈与加算…相続開始前7年以内の贈与を、相続財産に加えて計算する制度
両者を表で整理してみましょう。
| 項目 | 特別受益の持ち戻し | 生前贈与加算 |
|---|---|---|
| 法律 | 民法 | 相続税法 |
| 目的 | 相続人間の公平な遺産分割 | 相続税の正確な計算 |
| 期間 | 無制限 ※遺留分の算定は原則10年(例外あり) | 7年(2024年以降) ※改正により徐々に7年に近づく過渡期 |
| 対象者 | 相続人のみ | 相続・遺贈で財産取得した人 ※相続人以外(例:孫)でも、遺贈などで財産を取得していれば対象になり得る |
| 計算対象 | 各相続人の取り分 | 相続税額 |
| 免除 | 遺言等で持ち戻しの免除が可能 ※遺留分計算では別の取り扱いあり | 税法上の免除はない |
| 相続税への影響 ※詳細は後述 | 各人の金額計算時に影響 | 相続税そのものに影響 |
ここで最も押さえたいポイントは、「目的」です。
「特別受益」は言葉を見るとややこしく感じますが、その本質は
過去に財産をもらっていた人がいたら、それも含めて公平に財産を分けようね
という制度です。
当たり前のように感じる方も多いと思いますが、「特別受益」という言葉になった瞬間に分かりづらく感じる方も多いかなと。
言葉尻ではなく、内容を理解しておけばOKです。
一方で、「生前贈与加算」は、あくまで、
相続税の公平性を保つため
という計算上の仕組みです。
生前(特に亡くなる直前など)で、多額の贈与による過度な節税で、税負担を逃れることを抑制するといった制度です。
どちらも
相続開始「前」に被相続人(亡くなった方)から受けた「贈与や利益」が対象になる
という共通点はあるものの、
- 法律
- 目的
- 相続税への影響
といった点で相違点がありますので、両者の違いはよく把握しておきましょう。
そもそも相続税の基本を知っておこう
具体例を用いて整理していきたいと思いますが、まずは相続税の基本を知っておきましょう。
詳細は、以下で記載しています。
(動画解説付き)

相続税計算の全体像としては、
- 相続税の総額を計算する(Step1)
- 各人の相続税を計算する(Step2)
といった2段階を踏むことになります。
生前贈与加算は(Step1)の総額の計算に影響します。
そもそも、全体の相続税が高くなるという影響が出ます。
一方で、特別受益は(Step2)に影響します。
実際に受け取った財産の金額に応じて、各人の相続税が決まるため、特別受益を受けていた人の相続税は低くなる傾向にあります(受け取る財産が少ないので)。
具体例で確認してみよう
実際に数値を用いて確認してみましょう。
前提条件
- 父が死亡、遺産5,000万円
- 相続人は長男と次男の2人
- 長男は、生前に住宅購入資金として2,000万円を受け取っていた(特別受益)
- 次男は、生前贈与はない
- 説明簡略化のため、他の特例・控除(生命保険非課税枠、小規模宅地等、債務控除等)は考慮しない
ケース① 父が亡くなる10年前に生前贈与
(結論)遺産分割には影響するが、相続税の総額は変わらない。
この場合、
- 特別受益(民法)⇒期間に縛りはないため、考慮する必要がある
- 生前贈与加算(相続税法)⇒7年以上前であり、対象外
となります。
まず、亡くなった時点の5,000万円を長男と次男にどう分けるか?
を考えます。
長男は事前に2,000万円をもらっているので、相続財産の総額は
5,000万円+2,000万円=7,000万円
と捉えます。
シンプルに割り振ると、「7,000万円÷2人=3,500万」となりますが、長男は事前に2,000万円をもらっているのでマイナス2,000万円となります。
つまり、
- 長男:3,500万円ー2,000万円=1,500万円
- 次男:3,500万円
- 合計:5,000万円
といった形になります。
ただし、この遺産分割の決め方は、原則として相続人間の合意があれば自由に決めることができます。
つまり、必ずしも上記の形になるわけではなく、相続人全員(今回であれば長男と次男)の合意があれば、長男が5,000万円受け取ることも理論上は可能です。
(遺留分という「最低限もらえるはずの遺産」などの権利関係については、別途整理が必要ですが)
「原則は持戻し、例外で合意・免除」といった形ではありますが、「遺産分割は相続人間で決めることができる」という点は誤解される方も多いため、ご注意ください。
(特別受益は「原則は持戻し。ただし例外もある」という理解でOKです)
このケースでは、以下のように計算に影響が出ます。
(会計事務所記事のほうにExcelを置いていますので、ぜひご自身で試算してみてください)

ケース② 父が亡くなる1年前に生前贈与
(結論)遺産分割に影響し、相続税の総額はUPする
この場合、
- 特別受益(民法)⇒期間に縛りはないため、考慮する必要がある
- 生前贈与加算(相続税法)⇒7年以内であり、考慮する必要がある
となります。
特別受益については、ケース①と同様です。
生前贈与加算は、ケース①と異なり、相続税の総額に影響が出てきます。
具体的には、下表の課税価格が7,000万円になります。

その結果、長男・次男の相続税額もケース①と比べると高額になってきます。
- 長男 ケース①:24万円 ⇒ ケース②:96万円
- 次男 ケース①:56万円 ⇒ ケース②:224万円(!)
生前贈与のタイミングによって、大きく影響が異なってきますので、その時期には留意が必要でしょう。
以上、『特別受益』と『生前贈与加算』って何が違うの?といった観点で整理をしてみました。
少しでも参考になる点があれば幸いです。
では、また次回。