結論
個人事業主が仕事のために購入した一般的なビジネススーツは、必要経費として認められるハードルが高いです。
スーツは仕事で着用するものであっても、日常生活でも使用できる衣服です。
そのため、個人的な生活費(家事費)と事業上の支出との区分が難しくなります。
また、「仕事でしか着ていない」という理由だけでは、必要経費に算入する根拠として十分とはいえません。
なぜスーツ代は経費になりにくいのか
所得税法では、事業に必要な費用は原則として必要経費になりますが、個人的な生活費は必要経費になりません。
また、仕事と私生活の両方に関係する費用を「家事関連費」といい、取引の記録などに基づいて、業務上必要な部分を明確に区分できる場合には、その部分について必要経費にできる取扱いがあります。
一般的なスーツについては、特に次の3点が問題になってきます。
① そもそも衣服は生活用品としての性質がある
衣服は、仕事をしているかどうかにかかわらず、誰もが日常生活で必要とするものです。
また、衣服の種類や品質、購入する数量などには、個人の好みも反映されます。
そのため、仕事で着用しているという事実があっても、購入費のすべてが事業上必要な支出なのか、慎重に考える必要があります。
② どこまでが事業上必要なのか判断しにくい
例えば、毎日スーツを着て営業する個人事業主を考えてみます。
もちろん、仕事のためにスーツを複数着そろえる必要性はあるでしょう。
しかし、年間2〜3着購入する場合と、10着購入する場とでは、
事業上の必要性について求められる説明も変わってきます。
また、1着5万円のスーツと50万円のスーツとでは、
その価格を選んだ理由や事業上の必要性について、説明すべき内容も変わってくるでしょう。
もちろん、何着まで、いくらまでという一律の基準があるわけではありません。
高額だからという理由だけで、直ちに必要経費から除外されるものでもありません。
ただし、衣服は生活用品としての性質もあるため、どこまでが事業上必要な支出なのかを客観的に説明することが難しいという点があります。
③ 使用実態を客観的に証明しにくい
「仕事でしか着ていない」という使用実態も、必要経費になるかどうかを判断するうえで重要です。
しかし、購入後に実際にどのような場面で着用していたのか、仕事以外では使用していなかったのかを、後から客観的に証明することは容易ではありません。
領収書があっても、証明できるのは基本的に購入の事実です。
仕事専用で使用していたことまで証明できるものではありません。
このように、実際の使用状況を裏付けることに加えて、その衣服の購入が事業上必要な支出だったと客観的に説明できるかが重要になります。
サラリーマン税金訴訟の第一審判決では、衣服は誰もが必要とするものであり、その種類・品質・数量には個人の好みも反映されることから、被服費は一般的に家事費に当たるとしています。
一方で、勤務上必要な部分を私的な部分と明確に区分できる場合には、必要経費として認められる余地があるとの考え方も示しています。
※給与所得者の事案であり、個人事業主のスーツ代について直接判断したものではありません。
また、実際にスーツ代の経費算入が認められた判決でもありません。
業務専用の衣服との違い
一般的なビジネススーツと、業務専用の制服や特殊な衣装では、必要経費の判断が異なります。
例えば、制服や舞台衣装など、私生活での使用が通常想定されず、事業上の必要性が明確なものは、必要経費として認められる可能性があります。
一方、一般的なスーツについては、仕事専用と決めている場合でも、衣服としての性質や購入数量・金額、実際の使用状況などを踏まえた判断が必要になります。
必要経費として認められる可能性が一切ないということではありませんが、
事業上の必要性と使用実態を客観的に説明できるかが重要です。
表でまとめると以下のイメージとなります。
| 比較項目 | 一般的な ビジネススーツ |
業務専用の 制服・作業服 |
舞台衣装・ 特殊な衣装 |
|---|---|---|---|
| 衣服の性質 | 私生活でも使用でき、生活用品としての性質がある | 業務での使用を目的とし、私生活での使用が通常想定されない | 特定の業務で使用し、日常生活での使用が通常想定されない |
| 必要経費の考え方 |
必要経費として認められにくい 事業上の必要性や使用実態を客観的に説明することが難しい |
必要経費として認められやすい 事業上の必要性が明確で、業務専用として使用している場合 |
必要経費として認められやすい 業務との関連性や使用目的が明確な場合 |