FAQ No.040

法人成りすると、個人事業の債務も法人に引き継ぐ必要がありますか?

ご相談内容
個人事業の一部を法人化し、残りの事業は個人で継続する予定です。
これまでの借入金や未払金などは、すべて法人へ引き継ぐ必要があるのでしょうか。個人に残す場合の注意点も知りたいです。
回答
Contents

結論

個人事業の全部または一部を法人化する場合、個人事業の債務をすべて法人へ引き継ぐ必要はありません。

法人成りによって借入金や未払金などが自動的に法人へ移ることもなく、個人に残して支払いを続ける方法もあります。

大切なのは、法人へ移す事業の内容を踏まえて、どの債務を誰が負担するのかを整理することです。

どの債務を法人へ引き継ぐか

①事業ごとに債務を整理する

例えば、個人事業としてA教室とB教室を運営し、A教室だけを法人化する場合を考えてみます。

この場合、債務を次のように整理できます。

個人事業に残す

B教室で使用する設備の借入金や未払金など

法人への引継ぎを検討

A教室の設備に関する借入金や未払金など

両方の事業に関係する債務

両方の教室の運営に使用した資金の借入金など

まずは債務がどの事業に関係しているかを確認し、法人へ引き継ぐものと個人に残すものを検討します。

②個人で精算する方法もある

法人成りの際は、すべての資産や負債を法人へ移すよりも、個人で処理を終えた方がスムーズなケースもあります。

例えば、法人化前に発生した売掛金は個人で回収し、買掛金や未払金も個人で支払う方法です。
これらを法人へ移すには、取引先との調整や契約上の手続きが必要になることもあるためです。

また、個人の借入金で購入した設備を法人へ売却し、借入金は個人に残す方法も考えられます。
ただし、設備の売却に伴う税金や借入契約上の制約には注意が必要です。

債務の引継ぎ・支払いで注意すること

①借入金は金融機関との調整が必要

借入金については、何のために借りたお金なのか、今後どの事業の収益から返済するのかも判断材料になります。

例えば、法人化するA教室の設備購入資金として借り入れ、その設備も法人へ移すのであれば、借入金の承継を検討する理由があります。

ただし、個人と法人の間で借入金を引き継ぐと決めただけでは、金融機関に対する借主は変わりません。

借主を個人から法人へ変更する場合は、金融機関との手続きが必要です。
保証協会の保証付き融資であれば、保証協会との調整も必要になることがあります。

②個人の債務を法人が支払う場合

個人名義の借入金を法人が代わりに返済している場合は、会計・税務上の処理にも注意が必要です。

借入金の元本返済はそもそも経費にはならず、個人の債務を法人が支払った場合には、個人と法人の間で精算が必要になることがあります。

役員貸付金などとして処理するケースもあり、法人が役員個人の債務を無償で負担すると、役員に対する給与として課税される可能性もあります。

実際に、個人から法人へ借入金を引き継いだとして処理していたものの、金融機関が債務者の変更に応じていなかったことなどから、法人が支払った利息の一部について損金算入が認められなかった裁決事例もあります。

(参考:国税不服審判所・平成25年7月19日裁決)

③前受金やサービス提供義務にも注意

借入金や未払金だけでなく、サービスを提供する義務についても、引継ぎを検討する必要があります。

例えば、個人事業で継続講座の料金を前もって受け取り、その講座を今後は法人が提供する場合です。

この場合は、前受金とサービスの提供義務をどのように引き継ぐかを整理する必要があります。

契約上の地位を法人へ移す場合には、原則として契約相手方の承諾も必要です。


法人成りの際は、借入契約書や未払金・前受金の一覧などを確認し、個人と法人のどちらが負担するのかを整理しましょう。必要に応じて金融機関や取引先と調整し、合意内容を書面に残しておくことも大切です。

④商号を引き継ぐ場合

個人事業から法人へ事業を譲渡する際、法人が従来の商号を引き続き使用すると、債務引受の合意がなくても、法人が債務の弁済責任を負う場合があるため、注意しておきましょう。

参考情報・根拠 3件
法令 民法(明治二十九年法律第八十九号)第470条・第472条・第539条の2
概要
第470条では、従来の債務者と引受人がともに債務を負担する併存的債務引受について定めています。第472条では、従来の債務者が債務を免れる免責的債務引受について、その成立方法や効果を定めています。また、第539条の2では、契約上の地位の移転には、契約相手方の承諾が必要であることを定めています。
このFAQとの関係
法人成りしただけで個人事業の債務が法人へ自動的に移ることはなく、債務引受には法律上の手続きが必要であることを確認する根拠となります。
法令 会社法(平成十七年法律第八十六号)第22条・第24条
概要
第22条では、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、一定の例外を除き、譲渡会社の事業によって生じた債務についても弁済責任を負うことを定めています。第24条第2項では、会社が個人商人の営業を譲り受けた場合にも、第22条などの規定を適用することを定めています。
このFAQとの関係
個人事業を法人へ譲渡し、従来の商号を引き続き使用する場合、債務引受の合意がなくても、法人に債務の弁済責任が生じることがあります。
国税庁 No.5202 役員等に対する経済的利益
概要
法人が役員等に与える経済的利益について説明しています。役員等から債務を無償で引き受けた場合や、役員等の個人的費用を法人が負担した場合などは、原則として給与に相当する経済的利益となることを示しています。また、その経済的利益に関する法人税上の損金算入についても説明しています。
このFAQとの関係
個人事業から法人へ債務を移した場合や、個人に残した債務を法人が負担する場合に、法人と役員個人の間で適切な精算を行う必要があることを確認する根拠となります。

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