結論
親から子へ個人事業を引き継いだ場合、売上や売掛金は、原則として事業を引き継ぐ前と後で区分して処理します。
また、親が所有する資産を無償で借りる場合と、資産そのものを譲り受ける場合では、税務上の取扱いが異なります。
主な取扱いをまとめると、次のとおりです。
| 分類 | 項目 | 基本的な取扱い |
|---|---|---|
| 売上・債権 | 売上・債権 売上 | 原則として、引継ぎ前は親、引継ぎ後は子が売上を計上する |
| 売上・債権 売掛金 | 親の事業で発生した売掛金は、原則として親が売上に計上し、入金されたときに回収として処理する | |
| 資産・経費 | 資産・経費 土地・建物、機械・備品 | 親から無償で借りて使うだけなら、通常は贈与税がかからない |
| 資産・経費 減価償却費・固定資産税 | 親子が生計を一にしている場合、事業で使っている分を子の経費にできることがある | |
| 資産・経費 水道光熱費 | 事業で使った分を合理的に計算する。経費にできるかどうかは、親子の生計関係によって異なる | |
| 資産・経費 商品などの在庫 | 無償でもらう場合、親の所得税と子の贈与税について確認が必要 | |
| 税務申告 | 税務申告 親の確定申告 | 親が事業をやめた年も、所得税や消費税の申告が必要か確認する |
売上・売掛金は引き継ぎの前後で区分する
事業を引き継ぐ前に親が行った取引の売上は、原則として親の事業収入になります。廃業後に入金されても、すでに売上を計上していれば、入金時は売掛金の回収として処理します。
一方で、引き継いだ後の取引による売上は、原則として子の事業収入です。
請求書や入金口座が親名義のままであっても、名義だけで判断せず、実際に誰が事業を行い、売上を受け取る権利を持っているかを確認します。
親が子の売上を代わりに受け取った場合は、親子間で資金を精算し、それぞれの帳簿にも記録します。
土地・建物や機械・備品を無償で使う場合
親が所有する土地・建物や機械・備品を、子が無償で借りて事業に使用する場合は、
一般的に「使用貸借」として整理できます。
使用貸借とは、
物を無償で借りて使い、後で返すことです。
所有権は移らないため、
通常、資産そのものに贈与税はかかりません。
減価償却費などの経費については、
親子の生計関係によって取扱いが異なります。
所有権を親に残したまま使用するのであれば、通常、資産そのものの贈与には該当しません。
ただし、資産そのものを無償でもらう場合は、贈与に該当するため注意が必要です。
親名義の資産や費用を子の経費にできるか
親名義の資産や費用については、親子が生計を一にしているかどうかによって、経費の取扱いが変わります。
また、減価償却費・固定資産税と水道光熱費では、確認するポイントが異なります。
減価償却費・固定資産税
親子が生計を一にしている場合、親が所有する建物や機械・備品について、減価償却費や固定資産税の事業使用部分を子の経費にできる場合があります。
ただし、親に支払った家賃などを、そのまま子の経費にすることは原則としてできません。
一方、親子が生計を別にしている場合は、原則として、親が所有する資産の減価償却費を子の経費にすることはできません。
なお、減価償却費の計算では、親の固定資産台帳を確認し、取得価額や過去の償却状況を踏まえて計算します。
水道光熱費
電気代や水道代などは、契約名義が親のままでも、事業で使った分を経費にできる場合があります。
親子が生計を一にしている場合は、親への支払額をそのまま経費とするのではなく、実際に発生した水道光熱費のうち、事業で使った分を計算します。
生計を別にしている場合は、子が実際に負担した事業使用部分について、経費にできるかを検討します。
いずれの場合も、請求書を保存し、店舗の面積や設備の使用状況などを基に、
事業で使った割合を合理的に計算しておくことが重要です。
商品などの在庫を引き継ぐ場合
商品や材料などの在庫そのものを親から子へ無償で譲渡した場合は、使用貸借とは異なります。
親側では、原則として贈与時の価額を事業所得の収入に計上する必要があります。
また、子側では贈与税の課税関係や、引き継いだ在庫の取得価額を確認する必要があります。
そのため、無償で借りて使用する資産と、所有権も含めて引き継ぐ資産を区別して管理することが大切です。
廃業した親の確定申告も確認する
親が年の途中で個人事業を廃業していても、その年の所得について確定申告が必要になる場合があります。
所得税は原則として1月1日から12月31日までの所得を基に計算するため、廃業日までの売上や経費を整理し、申告の必要性を確認します。
また、親が消費税の課税事業者であった場合は、廃業した年の消費税の確定申告も必要です。
廃業によって事業用資産でなくなった資産については、消費税のみなし譲渡の取扱いにも注意が必要です。
事業を引き継ぐときに整理しておきたいこと
親子間の事業承継では、次の資料を確認しておきましょう。
経理の整理が進めやすくなります。
- 事業を引き継いだ日と、その前後の売上・経費の記録
- 売掛金・買掛金などの未精算残高
- 土地・建物や機械・備品の所有者と使用条件
- 固定資産台帳と過去の減価償却状況
- 引き継いだ商品・材料などの在庫の内容と移転条件
- 親子が生計を一にしているかどうか
まずは、「誰の収入か」「誰の資産か」「誰が費用を負担するか」を整理し、
親子それぞれの帳簿に正しく反映させましょう。